(PSP)TRICKxLOGIC(トリックロジック)レビュー/9点:名作。お金を作ってでも買う価値あり

TRICK×LOGIC Season1 - PSP

TRICK×LOGIC Season1 - PSP

TRICK×LOGIC Season2 - PSP

TRICK×LOGIC Season2 - PSP

 全10話+おまけ読了。いやあ、素晴らしいタイトルでした。
 
 衝動的にカテゴリ いっこ ついかして連載で攻略記事書いちゃうくらいですから相当です。
 基本的なシステムについては1stインプレッションの記事を読んで頂くとして、ここでは単刀直入に総評を。
 
 まずは素直に、斬新さと楽しさを両立したシステムの完成度の高さに大満足でした。
 従来の推理アドベンチャーゲームでは、シナリオの謎を解明、推理する為に、怪しい場所をクリックしてみたり、場面場面で適切な選択肢を選択してフラグを立てたり、と言う操作を求められるのが一般的ですが、このゲームでは、推理に必要な情報は全て事前に提示される為、シナリオを読み解く為に必要な操作は「ページをめくる」だけ。シナリオを読み終えさえすれば、シャワーを浴びている最中、通勤時間、身近な人との食事の間なども「あーでもない、こーでもない…」と思考をめぐらせる事ができる、と言う斬新なプレイ感覚のシステムになっていました。
 しかしながら、いくらプレイヤーが事件の真相、犯人を見事に推理しても、シナリオをクリアする為には、本文中のキーワードを組み合わせて「ナゾ」と「ヒラメキ」を出す必要があります。この時、例えば「どこから犯人は逃げたのか?」等、出したいナゾが明確になっているにも関わらず、それを出す為のキーワードが判らない…、と歯痒い思いをする事も。
 シナリオ毎に、組み合わせの「質」にバラつきがあり、ナゾの出にくい一部のシナリオでは、クリアの為にどうしても漫然とキーワードを選択し、睡魔との闘いになってしまうような事もありました。複数ケースの組み合わせを許容しているような「ナゾ」はあるものの、ここは改善の余地アリ、でしょう。一部の例外(Yの標的、てめーの事だよ)を除いて「ナゾ」自体には基本的にネタバレ要素は薄いので、もうちょっとすんなり「ナゾ」を出せる様な工夫があれば…、とプレイ中、何度も思いました。
 厳密には、推理(キーワードの組み合わせ)を30回連続で失敗すると、サブキャラが「ナゾ」を持って来てくれる、という救済措置があるのですが、完全にランダムで未発見のナゾを持って来る為、カタルシスはイマイチ。それよりも、何分か推理が停滞していると、ナゾの元となるキーワードが浮かび上がってくる、…とかの方が「自ら推理している」と言う緊張感を持続したまま攻略できるのでは?などと思いました。(←次回作でいかがでしょうかね、チュンソフトさん)
 
 なお、様々な場所で槍玉に挙げられる「棒読み声優(特に主人公)」「尻切れ蜻蛉のメインストーリー」については、確かに百点満点、とは言い難いですが、そこがこのゲームの本筋ではないと思うので全然許容範囲。むしろ、後者はオムニバスに一貫性を持たせる為の素晴らしい手法だと思いました。(そんな事よりも個人的には、一部シナリオのトンデモトリックが許せませんでした。Yの標的、てめーの事だよ。)
 
 その性質上、1回しか楽しめない、というのは珠にキズですが、この贅沢なゲーム体験は遊んで損なし。
 オムニバス形式のタイトルの為、ゲームとしての拡張性は抜群だと思いますので。上記で挙げたような不満点をさらにブラッシュアップし、是非とも続編を出して頂きたい一本です。
 
 では、各シナリオ毎の一言感想と、「個人的に面白かった」ランキング。
 ここでは容赦なくネタバレに触れているので、感想はあぶり出しにします。
 興味のある方はテキスト反転させてご覧ください。
 

第1位 切断された五つの首(Season1 第4話)
 個人的にはこのシナリオの為だけにこのゲームを買っても損はしないのでは、と言う程、驚天動地のシナリオ。厳密には「HowDoneIt(どうやったのか)?」ではなく「WhyDoneIt(なぜそうしたのか)?」を探るシナリオの為、トリックを解き明かす、と言う本筋から逸れる感はありますが、この「本気で腰が抜ける」感は新鮮。ドッヒャー、と言うよりはヘナヘナーって感じですが。(多分遊んだ人は解ってくれると思います)気持ちよく騙して頂きました!大好きなシナリオです。
 
第2位 完全無欠のアリバイ(Season2 第10話)
 超正統派ミステリー。どこから攻めれば良いんだよコレ…と言う、八方塞の読了後から、消去法でじわじわと真実をこじ開けていく感覚はゲームとして見ても珠玉の出来。コンパクトな文章量、調書のおかげで高密度なシナリオとなっており、Season2ではダントツの出来の一本でした。難易度は高いものの、決して不条理ではなく、自力で解けるギリギリのバランス感も素敵でした。第1話から第9話までの通例を覆す「調書」のしかけも面白かったです。遊んで損なし。
 
第3位 目の壁の密室(Season2 第8話)
 「五つの首」の作者だけに、これまたよく出来たシナリオ。「舞台装置」系シナリオではあるものの、現実離れしたような突飛な設定はなく、十分納得できる内容でした。ほぼ全ての情報に意味が有り、ノイズがほぼ存在しない、というのも大きな特徴。文章内のふとした違和感、矛盾から推理が広がっていく為、ゲームならではの楽しさに満ちていました。遊び心のある叙述トリックも仕掛けられており、大満足でした。でも、30秒以内にドアの陰で車椅子をターンさせる、と言うのは物理的に厳しいんでは…。
 
第4位 雪降る女子寮にて(Season1 第3話)
 キャラクター性の高い登場人物に、クローズドサークルのシチュエーション、と「ミステリーらしい」舞台設定のおかげで、情景の想像が楽しいシナリオ。肝となるトリックについても、膝ポン度は高く、爽快感は抜群。このあたりから、プレイヤーの推理を妨げる嫌らしいノイズが徐々に増えて来る点は好みが分かれるポイントでしょうか。ちなみに僕はちえみの言動に見事に翻弄されたクチでした。
 
第5位 盗まれたフィギュア(Season1 第1話)
 キーアイテムである「南京錠」の特性を上手く活用したシナリオ。犯人の手口に気づいた時に「ああっ!」と思わず声を挙げてしまいました。難易度は「2」と控えめ設定ではありますが、フェアなシナリオとなっており、決して陳腐な内容ではなかったです。このシナリオだけ殺人を扱っていない、と言うのも面白いポイント。アハ体験度ではピカイチのシナリオでした。
 
第6位 明かりの消えた部屋で(Season1 第2話)
 事件現場の間取りを生かしたミステリー。余りに情報が少なすぎて、可能性の広さに途方に暮れたシナリオ。「犯人はウソをついている可能性がある」と言うアカシャの基本ルールが上手く活かされたシナリオでした。プレイヤーによっては、間取りが想像できない可能性もあるので、見下ろしの見取り図だけではなく、事件現場の3D映像とかが見れても良かったかも。
 
第7位 指さす死体(チュートリアル)
 チュートリアルという特性上、非常にコンパクトなシナリオなのですが、現場の様子について想像力を働かせる必要のあるお話になっていました。「結露」という自然現象の原理を知ってないといけない、って辺りが、CERO「C」のポイントでしょうか。そんなに大袈裟な内容ではないとは思うのですが、このゲームへの取っ掛かりとして十分、評価に値するシナリオだと思います。
 
第8位 亡霊ハムレット(Season2 第5話)
 「舞台装置」系シナリオ。トリックありきの舞台設定となっていて、(元ネタはあるものの)登場キャラの当て字ネームなど、作り物感が強いのはこのゲームにはミスマッチな印象(漫画にすれば面白いのでしょうが…)。正解のヒラメキを選ばないと検証が全く進まない、と言う貧相な作りの検証パートは残念。これみよがしな矛盾が文中に散りばめられている為、ゲームとしては、遊びやすいシナリオではありました。ただ、監視カメラの映像のくだり「女性のようなシミひとつない白い手」っていう表現にやられたので心証的には最悪のシナリオ。女性のような、は要らんだろう…
 
第9位 ライフリングマーダー(Season2 第7話)
 こちらも「舞台装置」系シナリオ。現場となる「高麗島」と言う響きから「まさかなあ…」とは思ったのですが、その「まさか」を地で行く形になっていたのには一周して驚きました。トリック当てと犯人当てが完全に分離している、と言う構成はユニーク…なのですが、トリックのトンデモ感に興ざめしてしまって、そこからは集中力が途切れる結果に。犯人あてのくだりは、言われてみれば納得、なのですが、面白いかと聞かれると…。ねえ?
 
第10位 ブラッディ・マリーの謎(Season2 第6話)
 このシナリオはタイトルが完全なノイズ、と言う残念シナリオ。大量の血を浴びたのに足跡は?とか、バケツ一杯分も血が出るの?とか、枝葉の部分が気になって仕方がない、と言う。ミス研凸凹三人組など、登場人物は魅力的なのですが、肝となるトリックが「これは、果たしてミステリーなのか?」という内容。検証終了後も、なんだかすわりの悪いシナリオでした。
 



【越えられない壁】



 
選外 Yの標的(Season2 第9話)
 順位をつけるのも腹立たしい、不条理すぎる「舞台装置」系シナリオ。肝心かなめの殺害手段がもはや超常現象の領域。本シナリオ以外は、多少無理があっても(8話とか)、あー、なるほどなー、やられたなー、と思ったのですが、このシナリオはただただ頭にきました。この人にだけは実現できたんですよー、と言い訳がましい後日談も腹立たしい。シナリオが無駄に長くノイズが多い、調書の項目が異常に多い、ナゾ、ヒラメキが出し辛い、と、シナリオの外側にもストレスフルな仕掛けがてんこもり。「駐車場(or HAIYOのサイン) x 人間業とは思えない力で殴打」を組み合わせる、って言うのはあまりにもエスパーすぎるんじゃないですかね。丸ノ内警部の性格もこのシナリオだけなんか変だし。新興宗教がテーマ、っていう点で胡散臭いのに、とにかく卑怯なシナリオでした。
 
選外その2 暴走ジュリエット(おまけシナリオ)
 ネタばらし編付属のおまけシナリオ。ゲームとしては評価不能、ですね。これまたトリックが奇抜でしたね。なかなかに無茶がある、と言うか。クルマに興味があるかどうかは百歩譲っても、自分が動いてるかどうか位は流石に分かるだろ…と。ただ、読み物としてはそれなりに面白かったです。あんまり言うことは無いですが、登場人物、嫌な奴ばっかでしたね。